CRISPRを体に届ける最大の壁「サイズ」を突破 ― NIH支援チームが超小型編集ツール「Al3Cas12f」を開発
CRISPR治療を体の中で直接使うには、長年ある大きな壁がありました。「運び屋(ベクター)に入りきらない」という物理的な問題です。NIHの支援を受けた研究チームが、この壁を突破する超小型の遺伝子編集ツール「Al3Cas12f(アル3キャスじゅうに・エフ)」を開発したと発表しました。
【なぜ「サイズ」が問題だったのか】
これまで主に使われてきたCas9という酵素は、遺伝子編集の性能は高いものの、サイズが大きすぎるという弱点がありました。体内に遺伝子編集ツールを届ける方法として最も広く使われているのがAAV(アデノ随伴ウイルス)という運び屋ですが、AAVの「荷台」は小さく、Cas9はそのままでは1台に積みきれなかったのです。積むために2台に分けたり、性能を削ったりする工夫が必要で、これが体内治療の実用化を遅らせてきました。
【自然界から見つけた小さな酵素を改良】
研究チームは、自然界に存在する非常に小さなCRISPR酵素のグループに注目し、その中から「Al3Cas12f」という候補を見つけました。そのままではヒト細胞での編集効率が低かったため、タンパク質の形を少しずつ調整するエンジニアリングを加えたところ、ヒト細胞で実用レベルの編集効率まで引き上げることに成功したと報告されています。サイズはAAV1台に余裕をもって収まる小ささで、ガイドRNAや他の制御要素も一緒に積めるのが大きな利点です。
【「超小型編集ツール」という新しい流れ】
小型化のアプローチは、Al3Cas12fだけではありません。Mammoth Biosciencesの「NanoCas」、Scribe Therapeuticsの「CasX」系ツールなど、複数のチームが超小型CRISPRの開発を進めています。狙いは共通していて、AAV1台で体内の目的の組織まで届けることです。肝臓だけでなく、筋肉や神経、目の網膜など、これまで届けにくかった場所での治療可能性が広がると期待されています。
【LNPとは異なるもう一つの道】
体内CRISPR治療ではもう一つ、脂質ナノ粒子(LNP)を使うアプローチもあります。Intelliaの「nex-z」(トランスサイレチン・アミロイドーシス向け)は肝臓への送達にLNPを使う代表例です。LNPとAAVは得意な組織や持続期間が異なり、競合というより「届けたい場所によって使い分ける」補完関係に近いものです。超小型編集ツールの登場によって、AAVが担える領域が広がることになります。
【まだ臨床ではない、研究段階の成果】
今回の発表は前臨床段階の研究成果です。ヒトの治験で安全性・有効性が確認されたわけではなく、実際の治療薬として使えるようになるには長い検証が必要です。ただ、体内CRISPRの最大の難所だった「サイズ」に対する具体的な解決策が増えたことは、この分野全体にとって重要な一歩と言えます。
【出典】
NIH News Release "NIH-funded breakthrough shrinks CRISPR for precision delivery in the body"
https://www.nih.gov/news-events/news-releases/nih-funded-breakthrough-shrinks-crispr-precision-delivery-body
※本記事は情報提供を目的としたもので、医学的な診断・治療の助言ではありません。
www.nih.gov